連絡事項、作品への言い訳、どうでもいい日常などなど・・・。
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[1]
[2]
3.核心
「お前ならどうする?」
それは、唐突な問いだった。
「え?」
突然の主の問いに、六太は反射的に首を傾げた。
「たとえばお前だったら、どの道を選ぶ?」
何が?と逆に問いたかった。
けれど問わずとも、その意に六太はすぐに気づいてしまった。
いっそ何も悟れず気づけぬぼんくらであったなら、いろいろな気苦労など背負わずに済むのに。
そんな詮無いことを頭の片隅で考えたとき、主は何一つ飾らず、さらりと核心に迫る言を発した。
「俺が、お前に誰かを殺して来いと言ったら、お前ならどうする?」
ドクン、と六太の心臓が大きく鳴った。
何を馬鹿なことを、と一蹴するにはまだ、その記憶は生々しすぎた。
「お前が俺のたった一言でどれほど苦しむのか知っていても、血の穢れによる病に臥せるだろうことを知っていても、たぶんそのときには、俺はひとかけらの迷いもなく”やれ”と言うだろう。そうしたらお前はどうする?」
主の執心に抗うことができず、病に蝕まれていった彼女の最期の姿は、ひどく哀れで痛々しかったが、それを他人事だと思える麒麟はきっと存在しないだろう。
六太は、思わず拳を握り締めた。
そんなことを聞かされるだけでも気分が悪くなってくるということを、分かっていて尚隆はなお、問うている。
「のた打ち回るほどの苦痛を抱えてでも、麒麟の本能によって、その理不尽な言に従うか?それともこいつはもうだめだと見限って、この国の民への慈悲によって、俺を玉座から引き摺り下ろさせるか?」
確かめたいのだ。
尚隆は。
己の最期を。
―――いや、違うな。
俺の覚悟を、だ。
尚隆を王に選んだのは六太だ。
それは、この国の行く末に責任を持ち、最期を見届ける義務があるということ。
そんなことは分かっている。
生まれてから死ぬまで、六太は雁国の麒麟であり宰輔なのだ。
尚隆の表情は、あくまでも穏やかだった。
微かに口元に笑みさえ浮かべて頬杖をつく主は、まっすぐに半身の目を見つめていた。
「俺は・・・」
その視線は、六太の答えを疑わないと告げている。
―――そんなん、ずるいだろ・・・。
六太は、そっと唇を噛んだ。
言うべき答えは一つだ。
尚隆の欲しい答えは、よく分かっている。
だけど、もし本当にそうなったとしたら、実際のところ自分はどうするだろう?
尚隆の欲しい答えを、迷わずに選べるだろうか?
けれど、そんな逡巡さえ尚隆は必要としていなこともまた、よく分かっている。
だから、六太はわざとそっけない口調で言った。
「んなこと今更聞かなくたって、分かってるだろ、お互い」
―――今はまだ、迷う必要なんかないんだ。
尚隆が望む答えを望むがままに与えてやればいい。
それが今の六太の義務なのだろう。
薄紫の瞳をしっかりと主へと向け、一言一言区切るように六太は義務を果たす。
「安心しろよ、そのときは、ちゃんと―――」
その答えが、今、この国の、この二人の、核心となるのだから。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
尚隆と六太の核心。
月影の塙麟の最期はどんなだったっけ?と、もうそんな感じで十二好き失格です(^^;)アニメの塙麟のイメージが強くって。
「お前ならどうする?」
それは、唐突な問いだった。
「え?」
突然の主の問いに、六太は反射的に首を傾げた。
「たとえばお前だったら、どの道を選ぶ?」
何が?と逆に問いたかった。
けれど問わずとも、その意に六太はすぐに気づいてしまった。
いっそ何も悟れず気づけぬぼんくらであったなら、いろいろな気苦労など背負わずに済むのに。
そんな詮無いことを頭の片隅で考えたとき、主は何一つ飾らず、さらりと核心に迫る言を発した。
「俺が、お前に誰かを殺して来いと言ったら、お前ならどうする?」
ドクン、と六太の心臓が大きく鳴った。
何を馬鹿なことを、と一蹴するにはまだ、その記憶は生々しすぎた。
「お前が俺のたった一言でどれほど苦しむのか知っていても、血の穢れによる病に臥せるだろうことを知っていても、たぶんそのときには、俺はひとかけらの迷いもなく”やれ”と言うだろう。そうしたらお前はどうする?」
主の執心に抗うことができず、病に蝕まれていった彼女の最期の姿は、ひどく哀れで痛々しかったが、それを他人事だと思える麒麟はきっと存在しないだろう。
六太は、思わず拳を握り締めた。
そんなことを聞かされるだけでも気分が悪くなってくるということを、分かっていて尚隆はなお、問うている。
「のた打ち回るほどの苦痛を抱えてでも、麒麟の本能によって、その理不尽な言に従うか?それともこいつはもうだめだと見限って、この国の民への慈悲によって、俺を玉座から引き摺り下ろさせるか?」
確かめたいのだ。
尚隆は。
己の最期を。
―――いや、違うな。
俺の覚悟を、だ。
尚隆を王に選んだのは六太だ。
それは、この国の行く末に責任を持ち、最期を見届ける義務があるということ。
そんなことは分かっている。
生まれてから死ぬまで、六太は雁国の麒麟であり宰輔なのだ。
尚隆の表情は、あくまでも穏やかだった。
微かに口元に笑みさえ浮かべて頬杖をつく主は、まっすぐに半身の目を見つめていた。
「俺は・・・」
その視線は、六太の答えを疑わないと告げている。
―――そんなん、ずるいだろ・・・。
六太は、そっと唇を噛んだ。
言うべき答えは一つだ。
尚隆の欲しい答えは、よく分かっている。
だけど、もし本当にそうなったとしたら、実際のところ自分はどうするだろう?
尚隆の欲しい答えを、迷わずに選べるだろうか?
けれど、そんな逡巡さえ尚隆は必要としていなこともまた、よく分かっている。
だから、六太はわざとそっけない口調で言った。
「んなこと今更聞かなくたって、分かってるだろ、お互い」
―――今はまだ、迷う必要なんかないんだ。
尚隆が望む答えを望むがままに与えてやればいい。
それが今の六太の義務なのだろう。
薄紫の瞳をしっかりと主へと向け、一言一言区切るように六太は義務を果たす。
「安心しろよ、そのときは、ちゃんと―――」
その答えが、今、この国の、この二人の、核心となるのだから。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
尚隆と六太の核心。
月影の塙麟の最期はどんなだったっけ?と、もうそんな感じで十二好き失格です(^^;)アニメの塙麟のイメージが強くって。
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2.侵食
どうしよう・・・。
こんなはずではなかった。
そんなつもりなど、まったく無かったのに。
一体どうしたらいいんだろう・・・。
たとえば、風に乗って漂う金木犀の香。
たとえば、見上げた空の色。
たとえば、雲海の波の音。
たとえば、夕餉に出された酒の味。
ほら。
こんな風に。
自分の意思とは無関係に、ほんの些細なことがあの人を思い起こさせる。
どうしよう・・・。
気がつけば、心の中がどんどんあの人に侵食されてゆく。
こんなことではいけないと分かっているのに。
ああ。
こんなことになるなんて、思ってもみなかった。
あの人を、こんなにも好きになるなんて。
こうして、少しずつ少しずつ、私という心はあの人に侵されていって、そのうち全てが塗りつぶされる。
その色は――――漆黒。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
やっぱり・・・なんかダメだなぁ・・・。
面白くない・・・。
どうしよう・・・。
こんなはずではなかった。
そんなつもりなど、まったく無かったのに。
一体どうしたらいいんだろう・・・。
たとえば、風に乗って漂う金木犀の香。
たとえば、見上げた空の色。
たとえば、雲海の波の音。
たとえば、夕餉に出された酒の味。
ほら。
こんな風に。
自分の意思とは無関係に、ほんの些細なことがあの人を思い起こさせる。
どうしよう・・・。
気がつけば、心の中がどんどんあの人に侵食されてゆく。
こんなことではいけないと分かっているのに。
ああ。
こんなことになるなんて、思ってもみなかった。
あの人を、こんなにも好きになるなんて。
こうして、少しずつ少しずつ、私という心はあの人に侵されていって、そのうち全てが塗りつぶされる。
その色は――――漆黒。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
やっぱり・・・なんかダメだなぁ・・・。
面白くない・・・。
*自嘲
もしも。
もしも己の最期の時には、お前がそばに居るといい。
その時が何時であろうとも、何処であろうとも、きっと後悔も懺悔も無いだろう。
決して口には出せない本音。
もしも。
もしもお前が先に斃れた時には、俺は一瞬で全てを捨て去ろう。
きっと、惜しいと思う何かは、既に手のひらから零れ落ちているだろうから。
覚悟ではない、事実。
もしも。
もしもこの想いを全うすることが、全ての終わりを意味するのだというならば、上等だ。
寧ろ喜んで、その命運を引き寄せよう。
きっとそれは、この先の道を照らす、唯一の希望。
もしも。
もしもお前が、今同じ気持ちを抱いているのなら、奪ってしまおう。
罪悪感さえ無いままに。
決して力ずくでなどなく、大人の顔を魅せつけて、存分に優しく。
きっと優雅に手を差し出すだけでいい。
それだけで全てを手に入れる、可笑しいくらいの確信。
「延王?」
呼ばれて、男の意識は現実へと戻る。
目の前には、不思議そうに小首を傾げる隣国の女王。
「何か心配事でも?」
僅かに顔を曇らせた少女は、気遣うような眼差しで見上げてくる。
その穢れ無さの前に無意識に怯む自分と、無性に汚したい衝動とが鬩ぎ合う中で、男は鷹揚に笑んでみせた。
「そうだな。お前が心配してくれるのなら、何か悩み事のひとつも考えてくるのだったな」
その何もかもを覆い隠す笑顔に安心したのか、少女は男の抱えているモノに気づきもせずに、花のような笑みを零した。
「私のような若輩者が、延王の気がかりを払拭できるなんて痴がましいことは、思ってもいませんけれど」
―――否
と男は心中暗く嗤う。
今この問題を解決できるのは、お前だけなのだ、と。
もしも、お前が・・・。
男は茶杯を手に取り、すっかり冷めてしまった茶を豪快に呷る。
その茶杯の陰で、ひっそりこぼれた呟き。
「もしも・・・か」
男の口元に浮かぶのは、自嘲の微笑み。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
なんだか、書くもの書くもの、暗い・・・(^^;)
もしも。
もしも己の最期の時には、お前がそばに居るといい。
その時が何時であろうとも、何処であろうとも、きっと後悔も懺悔も無いだろう。
決して口には出せない本音。
もしも。
もしもお前が先に斃れた時には、俺は一瞬で全てを捨て去ろう。
きっと、惜しいと思う何かは、既に手のひらから零れ落ちているだろうから。
覚悟ではない、事実。
もしも。
もしもこの想いを全うすることが、全ての終わりを意味するのだというならば、上等だ。
寧ろ喜んで、その命運を引き寄せよう。
きっとそれは、この先の道を照らす、唯一の希望。
もしも。
もしもお前が、今同じ気持ちを抱いているのなら、奪ってしまおう。
罪悪感さえ無いままに。
決して力ずくでなどなく、大人の顔を魅せつけて、存分に優しく。
きっと優雅に手を差し出すだけでいい。
それだけで全てを手に入れる、可笑しいくらいの確信。
「延王?」
呼ばれて、男の意識は現実へと戻る。
目の前には、不思議そうに小首を傾げる隣国の女王。
「何か心配事でも?」
僅かに顔を曇らせた少女は、気遣うような眼差しで見上げてくる。
その穢れ無さの前に無意識に怯む自分と、無性に汚したい衝動とが鬩ぎ合う中で、男は鷹揚に笑んでみせた。
「そうだな。お前が心配してくれるのなら、何か悩み事のひとつも考えてくるのだったな」
その何もかもを覆い隠す笑顔に安心したのか、少女は男の抱えているモノに気づきもせずに、花のような笑みを零した。
「私のような若輩者が、延王の気がかりを払拭できるなんて痴がましいことは、思ってもいませんけれど」
―――否
と男は心中暗く嗤う。
今この問題を解決できるのは、お前だけなのだ、と。
もしも、お前が・・・。
男は茶杯を手に取り、すっかり冷めてしまった茶を豪快に呷る。
その茶杯の陰で、ひっそりこぼれた呟き。
「もしも・・・か」
男の口元に浮かぶのは、自嘲の微笑み。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
なんだか、書くもの書くもの、暗い・・・(^^;)
密かなる絆
「すまない」
私がそっと目を閉じると、あの人は囁くように確かにそう言った。
そして、静かにやんわりと、私に触れて行った。
心を抑えきれなくて。
本気で愛してしまって。
すまない、と。
初めての口づけは、ずっと思い描いていたような、甘酸っぱく胸を疼かせるものではなかった。
あの人の唇が触れた瞬間、想像もしていなかった痛みが荒く脈打つこの胸を襲った。
もう戻れない一歩へのおののきと、民に対する確かな後ろめたさ。
けれどそれすらも、喜んで受け入れよう。
この痛みこそが、私たちにとっての大切な絆なのだから。
これから先の長い年月、ずっと二人で共有してゆくもの。
誰にも見えない、触れられない、儚くて強い、私たちの絆。
誰にも気づかれないよう、その密かなる絆をそっと抱いて、今日も書卓に向かう。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
4つ目のお題です。
この4つのお題の頭文字を並べると・・・「なつのひ」となるわけです。
すでに9月に突入してしまい、”夏の日”よりも、そろそろ”秋の日”のほうがいいんじゃん!?くらいな感じですが(^^;)
名残惜しむ「なつのひ」ということで。
伸びた影と夕日
「影がだいぶ長くなりましたね」
そう言って、少女は笑った。
この前の逢瀬から、どれほどの月日が経ったことか。
――――こんなにも長い時間、放っておくなんて。
少女の一言が、男には、そう言っているように聞こえた。
決して、彼女はそんなことを言ったりはしない。
きっと、心にすら上ることは無いだろう。
それでもそんな風に感じてしまうのは、己の中に負い目があるからだ。
つらいときに、そばに居てやれない。
逢いたいという言葉も無理やり飲み込んで、己が職務を全うすることに全力を注ぐ。
そうすることしかできない。
そうすることが、互いのためだと己に言い聞かせ続けるしかなかった。
俺が俺でなかったら。
ただの、一人の男として彼女を愛せたならば。
ならば?
「手を・・・つないでいるみたいですね」
深い物思いから覚め、顔を上げると、少女がはにかんだように笑っていた。
「ほら」
視線の先をたどると、長く伸びた二つの影が、手をつないでこちらを見ていた。
ほんの少しだけ広げるように伸ばした少女の手は、軽く握られた男の手にちょうど重なっていたのだ。
男は傾きかけた夕日をまぶしそうに眺めてから、唐突に少女の手を握り締めた。
「影ではお前のぬくもりが感じられん」
唇の端をあげて、男もまた笑った。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
今日は(たぶん)尚隆目線で。
そんな風に負い目を感じてしまう男の心情を、きっと少女もわかっているのかもしれません。
きっと、「俺が俺でなかったら」彼女は貴方に惚れなかった。
「影がだいぶ長くなりましたね」
そう言って、少女は笑った。
この前の逢瀬から、どれほどの月日が経ったことか。
――――こんなにも長い時間、放っておくなんて。
少女の一言が、男には、そう言っているように聞こえた。
決して、彼女はそんなことを言ったりはしない。
きっと、心にすら上ることは無いだろう。
それでもそんな風に感じてしまうのは、己の中に負い目があるからだ。
つらいときに、そばに居てやれない。
逢いたいという言葉も無理やり飲み込んで、己が職務を全うすることに全力を注ぐ。
そうすることしかできない。
そうすることが、互いのためだと己に言い聞かせ続けるしかなかった。
俺が俺でなかったら。
ただの、一人の男として彼女を愛せたならば。
ならば?
「手を・・・つないでいるみたいですね」
深い物思いから覚め、顔を上げると、少女がはにかんだように笑っていた。
「ほら」
視線の先をたどると、長く伸びた二つの影が、手をつないでこちらを見ていた。
ほんの少しだけ広げるように伸ばした少女の手は、軽く握られた男の手にちょうど重なっていたのだ。
男は傾きかけた夕日をまぶしそうに眺めてから、唐突に少女の手を握り締めた。
「影ではお前のぬくもりが感じられん」
唇の端をあげて、男もまた笑った。
ー了ー
COUNT TEN.様からお借りしたお題を使用しています。
今日は(たぶん)尚隆目線で。
そんな風に負い目を感じてしまう男の心情を、きっと少女もわかっているのかもしれません。
きっと、「俺が俺でなかったら」彼女は貴方に惚れなかった。